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宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

突然変異で進化はできない。進化論最大の謎に突破口を開いた研究

「進化論」という理論をはじめて知ったのはたしか大学のときだった。「自然淘汰」と「突然変異」という超シンプルな原理で多様な生物の誕生を説明できてしまうことに衝撃を受けた記憶がある。

しかし、ダーウィンが唱えた進化論は「自然淘汰」が中心で、「突然変異」という概念は出て来なかった。ダーウィンが生きていた時代には、遺伝子という概念さえも未発見だったため*1、突然変異といった発想が困難だったと思われる。したがって、ダーウィンは「どのようにして生物は新たな形質を獲得するのか」という大問題には触れなかった。自然淘汰だけでは生存に有利な個体を”選別”することはできても、生存に有利な形質を”つくり出す”ことはできないのである。

時代は流れ、今や生命を司るセントラルドグマ、DNAの存在が明らかとなった。これによって「突然変異」の仕組みが明らかとなった。つまり、「ランダムにDNA塩基配列に変更が起こり(突然変異)、そのうち『偶然にも』生存に有利だった形質が保存される(自然淘汰)」という説明がなされるようになったのである。これがダーウィン進化論の強力な援護となった。

と思われた。

が、突然変異が進化を促すという説明は全くもって不十分であるばかりか、間違っている可能性すらある。後述するが、理論的に大きな穴がある。
「進化論」でググると分かるが、この点を巡って大混乱が起きており、2017年現在は検索結果1ページ目の約半分が反進化論を支持するというとんでもない状況になってしまっている。(個人的には、突然変異による進化が説明できないからと言って、進化自体を否定するのは乱暴すぎる気はする)
この科学の空白地帯にビジネスチャンス?を見出した人々が、宇宙人や神による生物創造説を提唱しているが、私にとって身近な例だとエホバの証人がある。彼らは熱心な布教活動をしていて丁寧な冊子を配っているので私にも分かるのだが、明確に突然変異による進化を否定している。彼らは進化を「大進化」と「小進化」に分けて考えていて、イヌからチワワ、ゴールデンレトリバーなど様々な品種が生まれる「小進化」は認めている一方、サルがヒトに進化したり、爬虫類が哺乳類に進化するような「大進化」は認めていない。意地悪い言い方だが、宗教上、現代の科学をどう解釈するかというこの戦略は巧みである。なぜなら大進化を説明する化石はほぼ見つかっていないし、突然変異の蓄積で生物に大進化を起こすことなど不可能に近いことが数学的に示されるからだ。

進化の謎を数学で解く

進化の謎を数学で解く

 

「 突然変異による進化は不可能」という問題提起から始まるのが「進化の謎を数学で解く」である。難しそうな内容だから軽く読み流すだけしてみようと思って購入すると異常なおもしろさで驚愕した。タイトルが心理的障壁を上げている気がする。本書に数式は一切出てこない。

なぜ突然変異による進化が不可能なのか。この本の冒頭で示される「ハヤブサの眼」の例がとてもわかりやすくエキサイティングな内容なのでこれを引用しつつ解説したい。

ハヤブサは獲物を狩るために突出した解像度の眼を持つ。1キロメートル以上の距離からハトを捉えられるという。この芸当を可能にするのは、クリスタリンという透明なタンパク質によるという。これがレンズの役割を果たし光を屈折させ、像を結ぶ。
多く見積もっても、生命が地球に誕生してから30億年が経ってようやくクリスタリン搭載の脊椎動物が現れた。つまり、地球上の全生命が突然変異/自然淘汰を繰り返して30億年後にクリスタリンを生成できる確率はいくらか?というクイズを考えることで、「突然変異による進化の可能性」を検証できる。

そのシミュレーション結果は散々である。
クリスタリンは数百のアミノ酸が鎖状につらなるタンパク質である。アミノ酸は20種類のパターンがあるので、DNAからランダムにクリスタリンを発現させようとすると、20の数百乗の確率になる。これは超々天文学的な数字だ。宇宙に存在する水素原子の数よりもさらに気が遠くなるほど大きい数となるらしい。こんなオーダーでは、どんな理屈をこねくりまわしても、わずか30億年で”ランダムに”高精細レンズという奇跡的な形質を獲得するなど到底不可能である。ちなみに、クリスタリンがタンパク質のなかでとくべつアミノ酸鎖数が多いというわけでもない。生物を構成する器官はクリスタリンにとどまらず奇跡のタンパク質めじろ押しである。

この事実を知ると、エホバの証人説はもちろん、宇宙人想像説も全くバカにできなくなる。彼らが神秘主義にこたえを見出そうとするのはもっともなことだったと思い知らされた。
けれども、本書はもちろん神秘主義的な本ではなく、進化論を支持する。驚くべき研究で。生命の多様な進化は必然だったのではと今になっては思う。そしてここで紹介される研究を目の当たりにすると、いよいよ神秘主義者たちのアイデンティティが危うい。この著者は進化論最大の謎に風穴を開けた。

私は本書を読んで、中間の長さの首を持つキリンの化石が見つかっていない理由も分かったような気がする。その理由はたぶん、首が伸びるという進化が驚くほど短期間で起こったためだ(ウイルス進化説ではなく)。
生物のDNAは絶えず揺らぎを続け、進化が止まっているように見える生物でも、DNAの潜在的な多様性は時間と共に高まっていく。そして機が熟すと進化は短期間で一気に進む。
本書読まれた方はこの意図が分かるかもしれない。興味ある人はぜひ読んでほしい。

*1:正確にはメンデルが遺伝子の存在をほのめかす重要な発見をしていたが埋もれていたらしい

私たちが知らない微生物の世界

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ヒトとバナナのDNAが50%以上一致するという話がある*1。DNA一致率の導出方法はあいまいな部分があるにしても、細胞などミクロな構成要素の生命活動は、ヒトも植物も共通のモジュールが、共通の遺伝子によって支えられているという事実がある。ヒトも植物も実は基盤のデザインは似通っており、遺伝的多様性がさほど無いのである。

外見的には私たちと植物との間に共通点などないように思えるが、地球上の生物の遺伝的関連性を樹形図に表すと(上図)、全体から見てヒトと植物の遺伝的距離は非常に短いのである。「パンダ」、「シロクマ」、「カニ」、「ひまわり」など、私たちがよく知っている「動植物」は生物界全体の実に狭い範囲である。それらは真核生物という種類の一部を担うにすぎない。私たちが知らない世界、それはミクロの世界だが、そこには想像を絶する遺伝的多様性をもった生命が蠢いている。

想像を絶するとはどの程度なのか。
微生物のスケール感を知るために、以下の記事を見てほしい。たとえば、地球上に存在する細菌の総数は宇宙に存在する星の数よりも多いと言われている。

yokazaki.hatenablog.com

微生物は、圧倒的な多様性で、圧倒的な量で、あらゆるところに棲息しているのである。私たちはその詳細を知る必要があると思う。なぜなら、そのスケールを持った微生物群が、ヒトや動物、植物、自然、地球上のあらゆることに影響をおよぼさないはずがないからだ。
動物、植物、昆虫の生態は続々と明らかになってきているが、微生物はその比じゃないほどのスケールがあるのに、ほんのわずかなことしか分かっていない。私たちは微生物のことをほとんど何も知らないのである。

私たちは、細菌とよぶと悪いイメージを持ちがちだが、思い切ってその考えを捨てたほうがいいかもしれない。細菌に注意すべきなのは、医療現場の人たちか、そうでなくても食中毒に気をつけるくらいで十分なはずである。

ネガティブなイメージと逆行して、常在細菌という考えが浸透し始めている。私たちの体にふだんから存在する細菌のことである。腸内細菌の効用についてはテレビでも盛んに宣伝されるようになったが、彼らは消化吸収プロセスなどに深く関わっている。

なぜ幼少期に卵アレルギーだった私が、大人になって1日に何個も卵を食べられるようになったのか?
時間と共に少しずつ常在細菌を獲得し、アレルギー原因物質を分解できるようになったからだと考えられる。

なぜ我々が消化しきれないセルロース食物繊維)をウシなどの反芻動物は栄養に変えられるのか?
彼らが胃の中にセルロースを分解できる細菌を飼っているからである。だからウシは草だけ食べてあれだけでかくなれる。

サルやカバなど、多くの動物には親の糞を食べたり、親のおしりをなめる習性を持つ動物がいる。彼らはおそらく常在細菌の受け渡しをしているのである。常在細菌の受け渡しをできた個体がのちの生存競争を優位に進められたからこそ、彼らの遺伝子にはそういった習性が組み込まれている。

つまり、私たち動物は(おそらく植物も)細菌と共生関係にある。消化吸収という重要なプロセスを細菌に一部外注しているのである。1生物の体の中で膨大な微生物の生態系ができているというのは衝撃的だ。しかし、1つの”細胞”の中でさえ、そういった共生関係ができる例があるという。ミトコンドリアも元は別個の微生物が細胞内に侵入したのが起源だという説があるらしい*2

個人的な意見だが、人の遺伝的要素以外の『個人差』の多くは、『常在細菌の分布の差』で説明できるのではないか、とさえ思っている。(たとえば、化粧品が肌に合う合わないの違いなど)

失われてゆく、我々の内なる細菌

失われてゆく、我々の内なる細菌

 

 

土と内臓 (微生物がつくる世界)

土と内臓 (微生物がつくる世界)

 

 

社会問題としての肥満の真実

突然ですが問題です。
抗生物質がもっとも利用される現場はどこ?』

抗生物質はご存知の通り細菌などの微生物を殺したり、増殖を止めたりする薬である。細菌系の病気に罹ったときに処方される薬としておなじみだが、わざわざクイズにするということは、こたえは『医療現場』ではない。

こたえは、『畜産農家』である。

家畜である肉牛のエサには成長促進剤なるものが含まれていて、これには多くの抗生物質が含まれている。小柄なヒトが風邪をひいたときにだけ処方する医療用抗生物質に対して、大柄なウシが日常的に摂取する畜産用抗生物質の量は段違いだ。製薬会社から見ると、医療用として販売する抗生物質の売上よりも、畜産用のそれの方が大きいという。

なぜ牛に抗生物質を与える必要があるのか?その目的は、牛を病気から守るためではないらしい。実は、抗生物質を与えた牛はそうでない牛よりも、大きく育つことが分かっているのである。これによってエサのコストに対して出荷される肉のkgを増やすことができる。畜産農家は利益を最大化するために抗生物質を使用するのだ。

畜産牛に恒常的に抗生物質を与えまくることは、抗生物質乱用による耐性菌問題、すなわち抗生物質に耐性がある細菌の登場を促し、既存の抗生物質で治療不可能な致死性疫病の蔓延を許すリスクを増大させるとして、世界的に警鐘がならされている。しかしそれはたしかに深刻な問題だが、今回私が問題にしたいのはそれとは別のことである。「抗生物質そのもの」が人体に有害となる可能性について言及する。
今から書くことは、おそらく医療現場の常識としてまだあまり浸透していない。問題の因果関係が完全に証明された研究もおそらくほとんどない(そもそも因果の証明が相当困難な分野ではあるが)。にもかかわらず、多くの人の不安を煽る内容で、特に妊娠中や小さい子どもを持つ親の不安を不必要に煽るものとなるかもしれない。けれどあえて書く。近い将来、以下の本が警告する内容が常識となると思っている(なぜそう思うかは別の記事で書きたい)。

追記:書きました*1

失われてゆく、我々の内なる細菌

失われてゆく、我々の内なる細菌

 

 細菌初心者のわれわれは、まず人体には有菌空間と無菌空間があることを知らなければならない。皮膚表面や体毛、そして口腔、消化器を経て、肛門までの経路には無数の細菌が棲息している。一方でそれ以外の場所、各種臓器や腹膜や血液といった器官は完全な無菌空間である。免疫システムの敗北によってこれら無菌空間に細菌が侵入することがあれば、一刻もはやく抗生物質で治療しなければ数時間で死に至る。症例として敗血症や髄膜炎などが有名である。

そのため、必要な状況では間違っても抗生物質の使用を躊躇してはいけない。そんなことは医師が十二分に分かっているので医師の診断に任せておけばいいが、「抗生物質を処方しなくてもよい場面で、抗生物質を処方しない」という判断は医師にとっては難しい。「念のため処方しておくか」という意識がはたらくからである。
ご存知のかたも多いと思うが、ほとんどの風邪はウイルス性なので抗生物質が効かないのだが、念のため抗生物質が処方されることがある。

抗生物質を投与すると、それに晒された細菌は増殖できなくなり、死滅していく。人体のすみずみに満遍なく抗生物質が浸透するということはありえないので、全細菌が死滅するということはないが、細菌から見ると天変地異レベルの大災害である。
時間が経てば幸運にも生き残った細菌が増殖して、すき間を埋めることになる。これが繰り返されると、何度も大災害を生き残った細菌だけが増殖してすき間を埋めるので、細菌の多様性が失われることになる。

「細菌の多様性喪失」こそ、抗生物質が人体に及ぼす影響である。実はこれが、昨今急速に増えている現代病の原因なのではないか、という説がある。抗生物質の実用化が成し遂げられたのは第二次世界大戦中だったが、戦後急増していると見られているものに「肥満」があり、「1型糖尿病」、「ぜんそく」、「花粉症」、「食物アレルギー」がある。これらは全て「細菌の多様性喪失」によって引き起こされるものではないか、と疑われている。特に「ぜんそく」、「花粉症」、「食物アレルギー」などのアレルギー系疾患についてはかなり説得力がある。これらアレルギーは、こどものころに発症しやすかったり、何の前触れもなく突如発症する特徴がある。しかしそれが特定の種の細菌の絶滅によるものだとすれば、論理的な説明がつく。こどものころに食物アレルギーや、ぜんそくが多いのは、生後細菌の多様性を獲得できていないからだと考えられる(後述のように胎児は無菌空間から産まれてくる)。
また、「1型糖尿病」の発症メカニズムもアレルギーと似ている。免疫系の過剰防衛が引き起こす。

「細菌の多様性喪失」の一因と考えられている要因はほかにもある。それは「帝王切開」である。
子宮内は無菌空間だが、産道は有菌空間なのだ。つまり、通常赤ちゃんは無菌空間で成長し、生まれるときに産道を通ることで、体の表面や口から母親の細菌セットを継承して産まれてくる。この細菌セットは代々受け継がれる秘伝のたれのようなものだ。帝王切開の場合は産道を通らないため、秘伝のたれを受け取ることができない。赤ちゃんはゼロから身の回りの細菌をかき集めてこなければいけないことになる。

そして、「細菌の多様性喪失」の影響として、「肥満」があげられることにはかなり驚かされる。「失われてゆく、我々の内なる細菌」によれば、幼少期の抗生物質の過剰使用が太りやすい体質を生む可能性が示唆されている。
太りやすい体質にはもちろん、遺伝的要因や飽食の時代という時代的要因もあるだろう。しかし戦後、全世界で成人のBMI指数が急上昇していること、発展途上国もこの例にもれずBMI指数が上昇していることを考えると、「飽食の時代になったから」という説明だけに依存するのはかなり危険な気がする。現段階では、抗生物質による影響をわれわれは念頭に置いておく必要があると思う。なにしろ、「抗生物質で太る」ことをウシは実証しているのだ。

『労働生産性』をめぐる混乱をふまえて日本が知っておくべきこと

toyokeizai.net

日本の労働生産性が先進国中最悪の水準だというこの記事に対して、コメント欄が混乱の様相を呈している。ぱっと見、8割がたの人が「労働生産性」の意味するところを誤解している。「日本の労働生産性が低い」という命題から、「サービス残業」、「長時間労働」、「業務の非効率さ」などの問題を連想するようだ。この連想は、率直に言って的を外している。

労働生産性の定義

エコノミストにとっては、労働生産性という指標が以下のように見えているらしい。

  • 労働生産性 = 付加価値 ÷ 労働者数
  • 売上高 = 付加価値 - 変動費 = (経常利益+固定費) - 変動費

経営者のための経営分析手法 <第1回> 生産性とは 付加価値と付加価値労働生産性

ここで言う付加価値は、国の単位で言えばGDPに相当する。会計的には経常利益+固定費である。この数式を見ると分かるように、労働生産性を上げるためには、

  1. 労働者数を減らす
  2. 付加価値(GDP)を上げる

の2つの方法がある。

国の視点で見ると、「労働生産性をあげるために労働者数を減らす」というロジックは本末転倒である。「労働人口あたりのGDPが低いから、失業率をあげなきゃ」とか考えてる政治家がいたらアホすぎるのでそんな国からは脱出しなくてはならない。
しかし企業の視点で見ると、労働生産性をあげるために労働者数を減らす」というロジックが成立してしまう。少ない人数で多くの売上をあげるということは、従業員1人当たりの待遇もよくなるし、会計上かっこよくも見える。ところがこれは合成の誤謬の罠である。多くの企業が労働生産性という数値だけを追いかけて”ひたすら人員削減”に邁進すると、売上は伸び悩み、失業者は増大し、格差も拡大する。国から見ると良いことはなに1つない。

一方、付加価値を上げるということは、国にとっても企業にとっても消費者にとってもうれしい、追究されるべき価値である。かんたんに言えば、「コストの削減」ではなく、「売上を上げる」ということだ。「コスト削減」に対して、「売上を上げる」ことは並大抵のことではない。より多く、より高く売れる商品を開発しろということだ。前述の「定時退社」や、「業務効率の改善」は、それをやることで「売上を増やせる」という前提があってはじめて労働生産性に貢献するのである。

このことについて言及した、本当にすばらしい記事があるので紹介したい。

president.jp

重要なのは生産性ではなく付加価値

 この記事では、付加価値という数字を因数分解して考えている。

  • 付加価値 = 経常利益 + 固定費 = 経常利益 + (人件費 + 減価償却費)

付加価値は、純粋な利益だけではなく、固定費が含まれる。主な固定費には人件費や減価償却費がある。これはつまり、薄利の業種でも、多くの人を雇用して、設備投資して、大きなビジネスをしている企業は付加価値額も付加価値率も大きくなるということだ。記事中で言及されてるように、”付加価値率”が最も大きい業種はサービス業なのである。ただし、「労働生産性」という指標で見ると、従業員数で付加価値額を割る必要があるため、サービス業は最下位に落ち込み、ITやハイテク業界が上位に上がってくる。
しかし前述したように、なぜ従業員数で割る必要があるのか?は疑問である。従業員をより多く雇う企業のほうが社会に貢献している。今後ますます多くのことをコンピュータが代替できるようになると、「人にしかできないことをやるために、人を雇用する」ようになるだろう。すると「付加価値比率が高い企業は、人にしかできないビジネスをやっている」という見方ができる。そういう意味でもこういう考え方はかなり重要になってくると思う。以下の記事が言っていることも、これと似ていると思う。

巨大ベンチャーより中堅・中小に魅力(藤野英人)|マネー研究所|NIKKEI STYLE

まとめると、あなたが「定時退社」しようが、「2時間かかっていた仕事を1時間で完了」しようが、「ワークライフバランスを満喫」しようが、そのことは”直接的には” 、労働生産性に寄与しないのである。
労働生産性に寄与するのは、労働者数を削減するか、より多く高く商品を売ることである。労働者数の削減なんてのをやりだしたら本末転倒である。おそらく私たちが目指すべきことは、機械化困難な分野に多くの人的コストをかけて、いい仕事をしましょう。ということになる。もっと多くの人が顧客と向き合う仕事をするべきとも言える。

なぜ南アフリカの殺人発生率は高いのか?

南アフリカと言えば、世界最悪クラスの治安の悪い国として有名である。
2014年の国別殺人発生率で比較すると世界ワースト9位に位置する。一般的に殺人発生率はGDPと負の相関があることが知られている(GDPが大きいほど、殺人発生率は下がる傾向がある)。その相関を補正して見ると、ある程度以上の規模の国家の中ではベネズエラに次ぐワースト2位。

以下が国別、都市別の南アフリカの治安の悪さを物語るデータだ。

世界の殺人発生率 国別ランキング - Global Note

国の国内総生産順リスト (為替レート) - Wikipedia

順位国名殺人発生率(件/10万人)GDP世界ランクGDP
1 ホンジュラス 74.55  108  18,550
2 エルサルバドル 64.19 103 24,259 
3 ベネズエラ 62.00 26 509,964 
4 米領ヴァージン諸島 52.83 - -
5 レソト 37.99 161 2,335
6 ジャマイカ 36.11  119 14,362 
7 ベリーズ 34.38 167  1,624 
8 セントクリストファー・ネイビス 33.33 179 766
9 南アフリカ 32.99 33   349,817
10 グアテマラ 31.21 77  53,797 


www.independent.co.uk

 南アフリカの突出した凶悪犯罪が生まれる背景には、それなりの原因があると考えられる。「南アフリカの衝撃」にその凶悪犯罪を生む土壌についての記載がある。その実態を紹介したい。

南アフリカの衝撃(日経プレミアシリーズ)

南アフリカの衝撃(日経プレミアシリーズ)

 

南アフリカの大問題、格差問題と失業率

 アフリカ大陸屈指の経済力を誇る南アフリカになにがおこっているのだろう?GDPが大きいにもかかわらずここまでの殺人発生率をたたき出す要因としては、貧富の格差があまりにもでかいことが考えられる。
実際に以下サイトで世界銀行調査のジニ係数(貧富の格差をあらわす指標で、100に近いほど格差が大きいことを示す)を確認できるが、格差が大きい順に並べると、南アフリカダントツの1位に浮上してきた*1。他の追随を許さない63.38である。ちなみにこの文脈のデータで、格差拡大が問題視されているアメリカでさえジニ係数は41.06(2013年)に過ぎない。南アフリカの経済格差は異常事態である。

http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/povOnDemand.aspx

Country Year Gini index
South Africa 2011 63.38
Namibia 2009.54 60.97
Haiti 2012 60.79
Zambia 2010 55.62
Lesotho 2010 54.18
Colombia 2014 53.5
Paraguay 2014 51.67
Brazil 2014 51.48
Panama 2014 50.7
Guinea-Bissau 2010 50.66

 さて、専制国家でも独裁国家でもない南アフリカがなぜここまでのジニ係数をたたき出せるのか?失業率を見るとこれまた驚愕の数字が出てくる。2015年のデータでは25.37%*2。世界3位をマークする。5300万の人口がいるので、実に1500万にものぼる失業者およびニートが存在することになる。

 異常な格差、失業率、殺人発生率、これらの元凶をうんだ背景は、やはり「アパルトヘイト」に集約される。「アパルトヘイト」と言えば、私が生まれたころにもまだ存在していた人種差別法である。それが脅威の殺人発生率におよぼした影響を3つあげたい。

産業の健全な成長を阻害したアパルトヘイト

 アパルトヘイトは国際社会から猛烈な批判を受けており、経済制裁を受けていた。そのため南アフリカは自国の成長戦略として、独占的に産出していたレアメタルを除けば、製造業などの輸出産業をあてにできなかった。その結果、南アフリカ全人口の10%に満たないマイノリティである白人向けの内需をベースとする事業しか育たなかったのである。深刻な産業の発達障害を起こしてしまったということだ。
この構造は膨大な失業者をうむ土壌となった。

農村を破壊したアパルトヘイト

 アパルトヘイト政策では白人が黒人から土地を取り上げた。裕福な白人は産業構造の変遷に伴って第二次産業第三次産業にシフトしていったため、農村がことごとく破壊された。農村のコミュニティはある種セーフティネット的な役割を果たす。むきだしの競争、拝金主義の大都市からのがれられる場でもある。それが破壊された国で大量の失業者が出るということは、反社会的勢力の拡大を許すということでもある。
実際にアパルトヘイト運動自体もこのエネルギーを源泉として盛り上がった側面がある。

アパルトヘイト運動によってうまれたロストジェネレーション

 反アパルトヘイト運動は正真正銘、内なる革命だった。差別の対象であった「黒人」が運動をおこし、その運動によって勝ちとった革命であった。反アパルトヘイトの重要な運動の1つに「ソウェト蜂起 - Wikipedia」がある。
ソウェト蜂起では、学生が中心となり激しい抗議活動が展開され、その一貫で学校のボイコットがおこなわれた。このボイコット世代の多くは、青年期に教育を受けなかったために、アパルトヘイト全廃を勝ちとって以降も仕事がなく、できることがなくなってしまったのだ。この世代はロストジェネレーションとよばれ、数百万のオーダーで存在するという。

 反アパルトヘイトを成功に導いたこの運動は、副作用として多くのドロップアウト者を出してしまったのである。この世代は高失業率と農村の破壊によっていきばを失い、その多くがダークサイドへ堕ち、驚異の殺人発生率の基盤ができあがってしまった。

 考えてみれば、既存の仕組みを破壊する力と、新しい仕組みを創造する力はまったくのベツモノだ。革命運動の多くは、「破壊の力」に長けた人たちの運動である。けれど問題の根が深ければ深いほど、革命後の「再構築する力」が重要になってくるのだろう。

 ロシア革命がおこった際にも似たような社会の混乱があった。1917年のロシア革命に50年先立って、「農奴解放」がうけいれられた。農地に縛られていた奴隷は自由を勝ちとったにもかかわらず、あまりにも貴族の利益を担保したうえでの農奴解放だったため、多くの解放奴隷はかえって貧困に苦しむこととなった。このとき不満をためた勢力が人類史上初の社会主義国家を樹立する原動力となったのである。

 現在のシリアの混乱もこれと少し似ている。シリア内戦の元は「アラブの春」という中東を席巻した民主化運動であった。このビッグウェーブにのった民主化勢力がアサド政権打倒をもくろんだが、内戦は泥沼化している。結局なにを守るためにたたかっているのかわけがわからない状況になってしまった。

 反アパルトヘイト運動は人類史に残る偉大な革命を成功させた。にもかかわらず、アパルトヘイト時代の負債が根深いばかりに、多くの黒人は依然世間で評価されているほど恩恵を受けてないように思われる。この革命が南アフリカにとって重要な一歩であったことは間違いないが、先はまだ長い。

*1:2010年以降データが存在する国のみを対象にしている

*2:世界の失業率ランキング - 世界経済のネタ帳

1000年後の未来人からバカにされる現代人の特徴はなんだろう?

現代人から見ると、中世や古代、先史時代の人々はとてつもなくアホに見えることがある。

ヒエログリフの解読が困難だった理由

たとえば、古代エジプトの文字、ヒエログリフの仕様の話だ。
ヒエログリフの解読は非常に難しかったというが、その理由の1つに、「文字を読む順番」がある。

神聖文字/ヒエログリフ

ヒエログリフの解読が困難な理由のひとつは文字の配列である。原則として右から左に詠むが、人や鳥の絵文字があった場合にはその頭部が向いている方が文頭になる。つまり人や鳥が左を向いている場合は左から右へ、右を向いている場合は右から左に読む。さらに位の高い神(オシリスやアヌピスなど)があると文中の人や鳥は皆楚の方を向いてしまう。そのため読む方向がわかりづらくなり、行ごとに向きが変わったり、下から上に読んだりする。

アホすぎである。
まるでこどもが考えだした独自ルールだ。
けれどもこの言語仕様から、当時の人々にとって王や神といった概念がいかに重要なものだったかが推測できる。

モンゴル帝国建国のチンギス・ハンの逸話

権力争いにおいても昔の人々のアホさがにじみ出る案件をしばしば目にする。

Mongol Empire - Wikipedia

Genghis rewarded those who had been loyal to him and placed them in high positions, placing them as heads of army units and households, even though many of his allies had been from very low-rank clans.

チンギス・ハンは彼に忠実であった部下を優遇し、軍のリーダーや側近など重要な役職として起用した。その者たちのほとんどが低い身分の出身であったにもかかわらず。

(訳:私)

歴史上最大の帝国となったモンゴル帝国の始祖チンギス・ハンは、身分にかかわらず忠実な部下を登用したとある。現代では、政治家や起業家が成功した秘訣として、わざわざこのような要因が登ることはない。「身分にかかわらず実力のある者を登用する」など今や当たり前の時代だからだ。

しかし、わざわざこのような記述が現代に伝わるということは、当時のほとんど全ての権力者が「身分制度」という常識にとらわれていたことを示す。だからこそ、その常識を疑ったチンギス・ハンが大帝国を築き上げるに至るのである。

1000年後の未来人からバカにされること

昔の人々は、「王」、「神」、「身分制度」などの常識にとらわれすぎていた。

現代の人々はどうだろう?
現代では、多くの国が国民主権を信奉し、信教の自由を保障し、科学技術を重視している。差別は根強く残るが、それが公の場で肯定されることもなくなった。前述のような「間違った常識」は社会の表舞台ではおおかた克服されたと言っていいと思う。

けれども、私たちは「間違った常識」を全て克服できたのだろうか?
1000年後も今と同じ価値観で暮らしているだろうか?

そんなはずはない。
1000年後の未来人からとてつもなくアホに見える言動が、わたしたち現代人が常識と思っているものの中にあるはずである。

それは、「カネ」じゃないかと最近考えている。

gigazine.net

従業員の給料をアップさせるために、Price氏は自身の給与額を110万ドル(約1億3000万円)から7万ドルに引き下げ、従業員をクビにすることなく最低賃金を増やす計画で、70人の従業員が昇給し、そのうち30人の給料は倍以上に増やすことができたそうです。

最低賃金を上げるためにGravity Payments社のCEOは自らの給与を削った。しかも1/10以下に。
この行動は現代の私たちから見てもネジが数本ぶっ飛んでいる。
ちょうどモンゴル帝国の登用システムが当時はぶっ飛んだ発想だったように。
Gravity Payments CEOのPrice氏が今後も大きな成功を修めるに至れば、1000年後の未来人が読むWikipediaにもこのエピソードが盛り込まれる、とそんなことを思った。

現代人には、個人が稼いだ「カネ」や「利益」を他人のために使う、分け与えるという発想が少ない。都市では個人主義が猛威を振るい、「他人のことは知らん」が正当化される時代である。アメリカでは格差拡大が深刻化し、目立った是正の動きもない。ごくわずかな慈善事業家を除けば、富裕層の大半も一般人と同じ程度に金に固執している。日本においても、自分も含め多くの人が「こどもの貧困」などの諸問題に無関心で居続けるのも根は同じである。

これはたぶん権力者や富裕層だけの問題ではない。多くの人々がその常識から脱却しない限り、社会レベルでは変革しない。現代のインドでは「カースト」による差別が憲法で禁止されているにもかかわらず、国民がそれを克服できていないがためにカーストの影響力が未だに強い。

現代人が今後1000年かけて闘うべき相手は「カネ」だと思う。未来人から軽蔑されないために、行動しなければいけない。NHKスペシャルを見てそういうことを思った。

www.nhk.or.jp

超遺伝子と減数分裂で理解するイーブイ進化の仕組み(3)

metheglin.hatenablog.com

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前回の記事で減数分裂と遺伝子とはなにか?を解説し、イーブイ進化の仕組みを理解する上で遺伝的連鎖という概念が重要だというところまで説明した。

遺伝的連鎖とはなにか?

遺伝的連鎖 - Wikipedia

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上記図を例に考えてみる。
仮に「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」、「手足の長さ」を決定する遺伝子があると仮定しよう。それらが、各染色体上に図のように分布しているとする。
前回までの減数分裂の説明によると、染色体と染色体の間はランダムに切断されるため、「目の色」とは無関係に「手足の長さ」は遺伝することになる。

ところが、「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」は状況が違う。それらは同じ染色体上に乗っているためだ。1つの染色体上にあいのりしている遺伝子たちは、他の染色体上に乗っている遺伝子よりもいっしょに次世代に継承される確率が高い。(継承されない場合は、いっしょに継承されない確率が高い)
前回説明のとおり、減数分裂時に1つの染色体上の塩基配列は途中で切れることもある(乗り換え/交叉)が、ぐちゃぐちゃに細切れに切れて混ざるものではないので、同じ染色体上の遺伝子グループは確率的に同じように動くのである。
この例では、「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」はセットで片親由来の特徴から遺伝しやすいということになる。

これは親と親の中間の特徴を持ったこどもが生まれにくいということを意味する!
同じ染色体上にのった遺伝子が決定する個体の特徴は、正規分布せず、2極化すると言ってもいい。

この現象を遺伝的連鎖という。

もっと言えば、上図では、1番目染色体上に「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」の遺伝子が乗っているが、「目の色」と「背の高さ」の遺伝子は遠く離れていて染色体の最上部と最下部に位置する。
ここまで距離が遠くなると、同じ染色体上と言えども、染色体上のどこか1箇所で乗り換え(交叉)が発生したら、離れ離れになってしまう。それらの形質の遺伝は比較的独立に起こりやすくなってしまう。

つまり「遺伝子Aと遺伝子Bの連鎖しやすさは、同染色体上の塩基配列に位置するAとBの距離の近さ」だといえる。

超遺伝子とはなにか?

さて、ここまでの説明で、実はイーブイ進化の神秘解明まであと一歩まで来ている。
減数分裂の物理的制約上、遺伝的連鎖という現象によって、”中間の種が生まれにくい”メカニズムを解明できたからだ。

中間の特徴の種が生まれにくいということは、「シャワーズ」と「ブースター」の子どもは「シャースター」や「ブワーズ」にはなりにくく、あくまでも「シャワーズ」または「ブースター」の遺伝子をもって産まれてくるということだ。

実は、今まで説明した遺伝的連鎖の仕組みを使って、同じ種でありながら、互いに全く異なる特徴を持つ個体に変態(ポケモンの場合は進化)する生物がポケモンの世界だけでなく現実世界にも存在する。

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Heliconius numata - Wikipedia

この写真はWikipedia引用だが、ヌマタドクチョウという蝶である。
サナギから成虫に変態(ポケモンの場合は進化)するヌマタドクチョウはこれら数種の羽模様パターンから1種が選ばれて蝶となる。まるでイーブイだ!

とりわけ圧巻なのは、この羽模様すべてが別種の毒蝶のパターンを真似ている(擬態)という点だ。
毒を持った別種の蝶と外見を似せるという擬態は、失敗が許されないシビアな芸当である。ちょっとでも似せることができなければ見分けれられて捕食されてしまう。
ヌマタドクチョウにとっては、各パターンの中間の模様ができることが許されないのだ。そういうシビアさもあってか、自然界には写真のパターンの中間模様をもつ個体は発見されていないという。

単純な減数分裂の仕組みでは、ジャガーのような模様の蝶と蟹の足のような模様の蝶が交配すれば、その中間の模様を持つ蝶が生まれるのが自然である。
しかし、遺伝的連鎖が究極に先鋭化したゲノムにおいては、高確率で中間種の登場を避けることが可能である。

多数の遺伝子グループが塩基配列上のかなり近い場所に集約されて並び、遺伝的連鎖が究極に先鋭化した状態、これを超遺伝子(supergene)という。
超遺伝子をもったゲノムは、個体の外見や性質に広範囲に影響するほど多くの遺伝子を同染色体上の1箇所に集中して保持している。

www.natureasia.com

どのようにしてこんな奇跡的なゲノムができあがるのか?最後にその仕組みを説明したい。

超遺伝子はどのように作られるのか?

減数分裂時に染色体が途中で切れてあいかたの断片とおきかわる現象(乗り換え/交叉)を紹介してきたが、切れた染色体の断片は逆さまになってつながったり(逆位)、場合によってはある染色体で切れた塩基配列片が別の染色体につながる(転座)こともある。切断された断片がどこかへいってしまい、塩基配列数が足りなくなることもある(欠損)。

これが何世代も何世代も繰り返され、非常に多くの遺伝子が染色体の1箇所に見事に結集することがありえる。
たとえば以下図のような具合で。
最終的に「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」、「手足の長さ」が1番染色体の上部に集まった。

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まとめます。

イーブイが進化(変態)時に複数パターンの形質を発現できるのは、減数分裂時に逆位、転座、欠損などが起こることによって、炎であれば炎を扱うのに優れた遺伝子がゲノム上の1箇所に集結し、遺伝的連鎖効果を極限まで高めたことによって実現できたと考えられる。

イーブイのゲノム解析が待たれる。 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

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