宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

なぜポリネシアはラグビーが強いのか?

昨年、日本がラグビーワールドカップで大活躍したのは記憶に新しいが、ラグビー強豪国と言われる国々が特徴的なことに気付く人は多いと思う。サッカーやオリンピック主要競技と比べると随分と毛色が違う国々が並ぶ。

以下Wikipediaから引用した2016/06/13時点でのラグビーワールドランキングを見ていただきたい。

ワールドラグビーランキング - Wikipedia

1 増減なし  ニュージーランド 96.10
2 増減なし  オーストラリア 87.56
3 増加 1  イングランド 86.37
4 減少 1  南アフリカ共和国 85.66
5 増減なし  アルゼンチン 82.59
6 増減なし  アイルランド 82.49
7 増減なし  ウェールズ 82.33
8 増減なし  フランス 78.36
9 増減なし  スコットランド 78.32
10 増加 1  フィジー 77.13
11 減少 1  日本 77.07
12 増減なし  ジョージア 72.70
13 増減なし  トンガ 71.43
14 増減なし  イタリア 70.78
15 増減なし  サモア 70.29
16 増減なし  ルーマニア 67.95

 

おもしろいのは、なぜかベスト16にポリネシア諸国が並ぶところだ。
ニュージーランドが1位というのも驚きではあるが、まだ理解の範囲内としよう。しかし、フィジーサモア、トンガに関しては明らかにおかしい。どう考えてもチーム制競技で世界のトップをはれる人口規模ではない。
あなたの出身の市区町村の人口を考えてみてほしいが、その地元の代表団が世界大会の競合常連になるようなものである。

人口 世界人口推計ランキング 名目GDPランキング
ニュージーランド 444万 122位 56位
フィジー*1 85万 161位 149位
サモア 18万 187位 178位
トンガ 10万 196位 183位

この謎にほぼこたえてくれた本が以下の「海を渡ったモンゴロイド」であった。ポリネシアの起源などについて言及している。

 

海を渡ったモンゴロイド (講談社選書メチエ)

海を渡ったモンゴロイド (講談社選書メチエ)

 

ポリネシア人モンゴロイド

ポリネシア人はどこからやってきて、太平洋島嶼部に住み着いたのか。
実はこの問題は、西欧が初めてポリネシアを発見した当初から西欧人の興味を惹く問題であった。なぜなら、ポリネシア人はほりが深く、身体的に大柄な筋肉質で、いわゆる白人(コーカソイド)に似た外見をしていたからだ。さらに、ポリネシア文化は独特な神話が伝承されており、階層的な社会構造を持つなど、メラネシアや東南アジアなどの周辺地域の文化とかなり異なっていた。
その当時はインドあたりから西欧人が太平洋に出て移住してきたという説もあった。

現在は、DNA解析の技術が洗練されたこともあり、ポリネシア人の祖先は本のタイトルにもあるように「モンゴロイド」であることが決定的である。
人類のポリネシアへの船出が始まった経緯は前回ブログにも書いた。

metheglin.hatenablog.com

スンダランドを中心とするオーストロネシア人が海上文化を発展させ、その文化の結集体として彼らは外洋航海へと挑戦し、太平洋の島々を次々と発見していった。ポリネシア人は彼らを祖先とする人々である。

太平洋に出れば出るほど島の密度は薄くなり、航海は困難になる。「海を渡ったモンゴロイド」は古代ポリネシア人の太平洋制覇という偉業の詳細に言及しているが、ここに大きな驚きがある。

自分ははじめ、死を恐れない、向こう見ずな人々が偶然に頼って島を発見していたのだと思っていた。しかしどうもそうではないらしい。
なんなら彼らは島を見つけてから故郷に戻るくらいの余裕を持った航海技術を持っていた可能性がある。

風も海流も逆に受けながら海を渡った

何よりの驚きは、ポリネシア一帯は恒常的に東から西に海流が流れ、風が吹いているということである。
これは偶然に任せた航海では絶対に東の島にたどり着かないことを意味する。計画的に航海しなければ太平洋の島々を発見することは不可能なのだ。

そしてポリネシアの島々で人類が住み始めた順番に興味深いところがある。
300年イースター島、400年ハワイ、1000年ニュージーランドとなっている。
ポリネシアでも最も大きいニュージーランドやハワイといった島は最後の方に発見されているのである。それよりも先に太平洋最東端のイースター島に行き着いた。

古代ポリネシア人にとっては、海流と風を逆走する東の制覇の方が簡単だったのである。その理由は、緯度が同じ方が星座の位置関係から現在位置を計算しやすいなどの理由が大きいが、帰り道が追い風、追い海流になるため、より安全だったという説もある。

航海の障壁となっていたものは寒さ?

計画的だったとは言え、相当過酷な冒険であったことに違いはないだろう。
時系列的にはだいぶ後のことになるが、鑑真が日本への航海で何度死にかけたか思い出せば、太平洋の航海は想像を絶する恐ろしさである。

特に彼らを苦しめたものは寒さだったのではないかという説がある。赤道近くの海とは言え、夜には日は沈み、1日中水しぶきを浴び続ける。西欧の冒険家がこの一帯をカヌーで航海をした際にひどい寒さに苦しんだという記録があるらしい。
ということは、限られた食糧から最大限のエネルギーを備蓄し、熱を生み出せる者しか洋上の長旅に耐えることはできない。

なぜポリネシアラグビーが強いのか?のこたえ

以上より、ポリネシア人が異常にラグビーが強い理由について以下のように推察できる。

過酷な海の長旅に耐えることができたのは、屈強な肉体を持ち、熱を蓄えやすい身体的特徴を持った男女であった。彼らが到達した島は、大陸からあまりに離れていたため、現代社会以前は多民族との交流が少なかった。その結果彼らの保有していた特徴はボトルネック効果となって、現在にも続くポリネシア人の特徴として受け継がれることとなった。

つまり、肉体的に頑丈な男性が生まれやすいということである。
実際ラグビー以外では格闘技でもポリネシアは有名選手を多数排出している。ポリネシア人は総じて肉体を酷使するスポーツに長けている。
また、現代のポリネシア諸国は肥満が社会問題化している。熱を蓄えやすいというのは栄養が豊富になれば、太りやすくなるということでもある。

 

*1:厳密にはフィジーポリネシア諸国に分類されないが、ポリネシアメラネシアの境界に位置し、ポリネシア文化の影響を濃く受けている国である