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宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

ネアンデルタール人ゲノムから分かる初期人類の愉快な日常

ネアンデルタール人は長い間現生人類の祖先と考えられてたようだが(自分が中学校のころもそう習った)、そうではないことが証明された。ネアンデルタール人現生人類は共通の祖先がいるだけであくまで別の種である。

すると人類学者の間では、ネアンデルタール人現生人類の間に交配があったか、ということが大きな議論の的となった。
生物学的には、遺伝的距離が短ければ別の種同士であっても発情し子どもを生むことができるが、遺伝的距離が長くなると発情しなくなる。人為的に強制交配させ子どもを作ることは可能でもその子どもには繁殖力が無いといったDNA上の原理があるらしい。
ネアンデルタール人現生人類は互いに惹かれ合い子どもを作ったのか、というのは非常に興味深いテーマであった。

2010年に世界を震撼させたゲノム解析結果がその問題に終止符を打った。
ヨーロッパおよび中東に特有の遺伝子、いわゆるコーカソイド遺伝子の1~4%程度はネアンデルタール人から継承されていたのだ。
どういうことかと言えば、Wikipedia掲載の以下の図がわかりやすい*1

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今から述べることはネアンデルタール人研究結果から勝手に想像したことに過ぎないが、現世人類との関係を考える上では十分ありえることではないかと思う。

1~4%という数字がいかに大きいかイメージしてほしい。
現代で考えれば平均的な中学校の学年に1人以上、場合によってはクラスに1人ネアンデルタール人がいるということになる。
ネアンデルタール人は現生人類の祖先よりも低身長だったが、体重は重く、太く頑強な肉体と腕力を持っていた。
「クラスに1人いたチビの怪力」くらいの馴染みで現世人類の族社会にネアンデルタール人が溶け込んでいた可能性がある。

ネアンデルタール人の男が現世人類の女を誘拐し(もしくは恋に落ち?)、ネアンデルタール社会に連れてきて子孫を残したということはあったかもしれないが、それは現代のヒトの遺伝子にネアンデルタール遺伝子が残っている理由にならない。現代の遺伝子に残っているということは、現生人類の祖先が部族社会の中でネアンデルタール人との子どもを育てたということを意味する。
そのためには以下のケースが考えられる。

  1. 現生人類の女がネアンデルタール人の男と接触し妊娠し、自分の部族に戻って産んで育てた
  2. ネアンデルタール人の女が現生人類部族社会に連れてこられ、子孫を残した
  3. ネアンデルタール人の男が現生人類部族社会に連れてこられ、子孫を残した
  4. ネアンデルタール人の男女が現生人類部族社会と共生し、子孫を残した

全てのケースが部分的にあった可能性はある。けれど、1~4%も面影を残していることについて、最も大きな理由となりうるのは個人的に(3)でないかと思っている。

(1)と(2)は、狩猟採集社会で部族のしきたりの中で生きていかなければいけない当時の実状を想像すると可能性は低いと思う。狩猟採集民は安定して食糧を確保できないので、人口を多く保てない。産まれすぎた子どもを間引く(つまり人口制御のため意図的に殺す)文化も珍しくない。
異種との子どもを育てるという人種的許容が当時の社会にあったとは思えない。例外としてはあったことは否定しないが、1~4%の面影を今日にまで残すほどの規模でそういうことがあったとは思えない。
また、子育てにおいてまわりから多くの協力を得なければいけない女性はアウェイの環境に置かれることに弱いという特徴もあると思う。ネアンデルタール人の女性が人類祖先の女性からの手厚い支援を受けられたとも思えない。

(4)は男女ともに異種間の交配があり、互いにハーフの子を育てるような状況である。そのようなことがあったとするとかなり興味深いが、だとすれば逆に1~4%程度にとどまっていることが謎になる。また、そういう例があればそれを示す大規模な考古学的証拠が上がってもおかしくない。
基本的には現生人類とネアンデルタール人は敵対関係にあったと考える方が自然だと思う。

(3)は部分的に前述の説明を覆す内容になるが、ネアンデルタール遺伝子が現代に残る理由として説得力があると思う。
つまり、ネアンデルタール人の男は、現生人類祖先の部族社会に受け入れられた例が多数あったのではないかということだ。「ネアンデルタール出身チビの怪力くん」が各部族に1,2人紛れていたということである。
そう考えると、90年代後半の研究でミトコンドリアDNA解析結果からネアンデルタール人と現生人類の交配がまったくなかったと結論付けられた理由も説明できる。ミトコンドリアDNAは突然変異を除いて母系のDNAを100%継承するからである。

ネアンデルタール人の人間離れした怪力は狩猟時に大活躍したのだろうと思う。そのため彼らは部族から受け入れられ、重宝された。
彼らが現生人類部族に参加したのは、ネアンデルタール人の中でも異端の存在だったからかもしれないし、戦いに敗れて捕虜となったからかもしれない。優れたスキルを持った男性がネアンデルタールと現生人類との間でトレードされたという可能性もある。
いずれにしても、彼らはその後部族社会に溶け込み、少なくとも活躍したと考えられる。なぜならそうでないと現生人類の女性との間に子どもを設け、その子どもを部族の中で育てることなどできないからだ。
彼らはある意味部族社会の人気者でヒーローだったかもしれない。ちょうど外国人スポーツ選手が日本リーグで大活躍するようなかんじで。

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*1:厳密にはサブサハラ以南アフリカ先住民を除く現世人類にネアンデルタール人の遺伝子が残されている可能性が高い。Archaic human admixture with modern humans - Wikipedia, the free encyclopedia