宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

大型肉食動物の家畜化に成功した唯一の例?

前回肉食動物の家畜化はほとんど不可能という内容のブログを書いたが、例外がある。

metheglin.hatenablog.com

おそらく人類史上初、大型肉食動物家畜化を成功?させたのは日本だ。
その動物とは、クロマグロである。
かの有名な近畿大学が世界初の完全養殖に成功した。近大マグロである。

魚類は小型のものでもプランクトンやオキアミをエサとするので、草食か肉食かと言われれば肉食なので陸上肉食動物と比較すれば家畜化養殖化の難易度は低いと思う。実際に小型中型魚類では以前から養殖に成功した例がいくつかあったが、マグロなどの大型魚類は海の食物連鎖頂点に君臨するという意味で、陸上の大型肉食動物を家畜化するに近い難しさがあった。

 

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)

 

漁業は狩猟採集業

日本の漁獲量は近年急激に減少している。
その主たる要因は、「魚が食べられなくなる日」によると、乱獲による日本周辺の海産資源の減少だと言う。現在は日本が消費する海産物のかなり割合を輸入に依存している。
1億を超える人口の魚食文化を維持するには大きな環境の負担があったということだ。
考えてみれば、漁業とは狩猟採集である。あくまでも人間のコントロール化にない、自然の恵みを授かっている。無計画に収穫を続ければ、海といえども持続可能性はなくなる。焼畑農業が環境に深刻なダメージを与えてしまうのと同じで。

天然資源に大きく依存するクロマグロ養殖

漁業が狩猟採集であるという視点で考えると、完全養殖に成功したクロマグロなどの魚類が”完全に”人間のコントロール下にあるか、と言えばそれはあやしい。
なぜなら、マグロのエサの原資は”漁獲された”小型魚類だからである。
(完全養殖の意味することは、卵を孵化させて成魚まで育てること。以前はそこまで達成できず、稚魚をつかまえてきて育てることを養殖と言っていた。)

養殖クロマグロ1万トンを生産するために必要なサバの稚魚は15万トンだと言う。日本で漁獲されるサバの1/3にものぼる。
近年は克服されたようだが、以前は生き餌でなければいけないという制約もあったようだ*1
畜産の牛はエサの原資となる穀物も人間のコントロール下で生産できる一方、クロマグロの場合現状そうはいかないということだ。養殖の大きな割合をマグロのエサとなるサバ、つまり天然資源に依存している。

エネルギー効率の壁を超えられるか?

これは同時に、前回ブログで書いたようにマグロ養殖のエネルギー効率が悪いことも意味する。収穫されたサバを直接食べた方が、収穫したサバを養殖マグロに与えてそのマグロを食べるよりはるかに効率的である。

養殖クロマグロの引き続きの課題はコスト削減である*2
マグロ養殖研究の当初の目的は安定供給実現だったはずなので、天然資源にほとんど依存せず低コストで養殖可能なシステムを構築できるかは興味深い。牛の大規模畜産に穀物の大規模栽培が必要となるように、大型魚類の大規模養殖にはプランクトンの養殖技術が必要になるのではないかという気がしている。