宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

超遺伝子と減数分裂で理解するイーブイ進化の仕組み(2)

metheglin.hatenablog.com

前回イーブイの進化パターンの違いは個人差のレベルを超えているということを書いた。このことをよく理解するために、遺伝子とは何かを理解する必要がある。

利己的な遺伝子」とWikipediaの各説明をかみ砕いて解釈したところでは、遺伝のプロセスは以降の説明のように理解できる。シンプルなモデルとしてはこれで十分かと思うが、もし誤りあればご指摘ください。

減数分裂とは何か?

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すべての細胞の核の中には染色体が埋め込まれている。
ヒトの場合、染色体は23個が2組で対になっており、計46個ある。
染色体の中にはえんえんとDNA塩基配列のコードが収容されている。

通常、体細胞分裂時には、この46個全ての染色体がまるごとほぼ正確にコピーされるが、生殖細胞については例外である。生殖細胞は、体細胞から「減数分裂」という分裂で作られる。
減数分裂すると、互いに対となる染色体のどちらかだけが選ばれて、23個×1組=23個の染色体をもった生殖細胞が作られる。

父と母それぞれの生殖細胞が受精すると、23個染色体セットを両親から1本ずつ、計23×2組=46個もらい、新たな生命となる体細胞が完成する。

ここまでの説明では、減数分裂時に1番目の染色体がとりうるパターンは2通り(父系の1番染色体か母系の1番染色体かのどちらか)である。2番目、3番目、...、23番目の染色体も同様に2通りである。
つまり、減数分裂で現れる生殖細胞のDNAパターンは2^23(2の23乗)=838万程度である。
これはDNAパターンとしては心もとない。1回の射精で数億の精子が放出されると考えると、精子1匹1匹の個性はほぼ無いと言っていい。1回の放出精子群の中だけでも数十匹は自分と全く同じ精子がいることになる。

しかし精子の個性喪失を心配する必要はない。現実はそこまでシンプルじゃないらしい。

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 実際には上図のように染色体の途中で切れてつながったり、染色体の途中が置き換わったりする。これを乗り換え(交叉)と言う。それを考慮すると、DNAパターンは無数にある。

 ということは、父系DNAと母系DNAの特徴は完全にランダムにまざり合ってしまうのだろうか?
そうではない。完全なランダムではない。
これを理解してもらうために、次は遺伝子とはなにかを説明する。

遺伝子とは何か?

 遺伝子という言葉は、「遺伝現象を司るなんらかの因子があるはずだ」というメンデルの仮説がもとになっている。しかしよくよく調べると、遺伝現象を司る因子は様々なレイヤで様々な解釈が可能だった。そのため”遺伝子”が示す実体は、使う人によって、文脈によって変わる。

DNA塩基配列は一見すると単なる分子の配列にすぎない。ただしそれは、その配列をそっくりそのままコピーできるという魔法の分子配列だ。地球上に生命が誕生しようとしていたころ、DNAの祖先はせっせと自分自身を複製し続ける奇妙な分子構造だったと思われる。

ところがその塩基配列が一定の長さを超え、特定の並びを完成させたとき、奇跡的なことが起こる。その配列が化学反応を誘発してたんぱく質を製造し始める(発現する)のである。
そのたんぱく質がDNA自身を覆うと「細胞」となり、DNAは外界の雨風を凌ぐ緩衝材を手に入れる。そういう特定の並びを完成させたDNAはそうでないDNAよりも寿命が永く、複製力が強かった。それ以降の生命の進化はダーウィン自然淘汰説でご存知の通りである。

ここで分かるのは、染色体の中身、えんえん続くDNA塩基配列を根気よく見ていくと、「たんぱく質を製造できる奇跡の並び」がいたるところに現れるということだ。
このように、「たんぱく質と結びついた塩基配列の並び」が遺伝子の最狭義とされている。学術的にはこの遺伝単位を「シストロン」とよぶ。

そしてそれらは近年研究が目覚ましいゲノム解析のおかげで、ヒトの特徴と結び付けられることが分かりつつある。つまり、下図:左のように、「目の色を決定する塩基の並び」、「肌の色を決定する塩基の並び」、...という具合である。

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さて。
ここで減数分裂を再考できる。上図のように23個×2組の染色体を縦1次元に並べて考える。
減数分裂では父系か母系のどちらかの染色体が選ばれるので、1番目染色体と2番目染色体の間で切れる(遺伝元が異なる)確率は1/2である(上図:右)。

さきほど減数分裂は単純ではなく、染色体の途中で塩基配列が切断されてもう一方とつながることがあること(乗り換え/交叉)を述べた。
けれど、染色体上の遺伝子(シストロン)数は膨大なので、個々のシストロンとシストロンの間で切れる確率はかなり低い。
交叉によって、シストロンの途中で切れることはさらに珍しい*1が、全く起きないわけでもない。

要するに、ぐちゃぐちゃに2組の塩基配列がまざるわけではなく、切断されるポイントは確率的に決まっているのである。

父系DNAと母系DNAがどのようにまざるかは厳密には分からない、しかしある程度確率的に決まっており規則性がある。この規則性が重要である。
これが分かると一気にイーブイ進化の謎に迫ることができる。
謎を紐解く手がかりとなるのは、遺伝的連鎖という概念である。

 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

 

 

*1:なぜ珍しいかは調べきれていない。おそらく塩基配列中のシストロン部よりもシストロンでない部分の方がはるかに大きいということでないかと推測してるが、ご存知のかたいたら教えてください。