宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

超遺伝子と減数分裂で理解するイーブイ進化の仕組み(3)

metheglin.hatenablog.com

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前回の記事で減数分裂と遺伝子とはなにか?を解説し、イーブイ進化の仕組みを理解する上で遺伝的連鎖という概念が重要だというところまで説明した。

遺伝的連鎖とはなにか?

遺伝的連鎖 - Wikipedia

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上記図を例に考えてみる。
仮に「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」、「手足の長さ」を決定する遺伝子があると仮定しよう。それらが、各染色体上に図のように分布しているとする。
前回までの減数分裂の説明によると、染色体と染色体の間はランダムに切断されるため、「目の色」とは無関係に「手足の長さ」は遺伝することになる。

ところが、「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」は状況が違う。それらは同じ染色体上に乗っているためだ。1つの染色体上にあいのりしている遺伝子たちは、他の染色体上に乗っている遺伝子よりもいっしょに次世代に継承される確率が高い。(継承されない場合は、いっしょに継承されない確率が高い)
前回説明のとおり、減数分裂時に1つの染色体上の塩基配列は途中で切れることもある(乗り換え/交叉)が、ぐちゃぐちゃに細切れに切れて混ざるものではないので、同じ染色体上の遺伝子グループは確率的に同じように動くのである。
この例では、「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」はセットで片親由来の特徴から遺伝しやすいということになる。

これは親と親の中間の特徴を持ったこどもが生まれにくいということを意味する!
同じ染色体上にのった遺伝子が決定する個体の特徴は、正規分布せず、2極化すると言ってもいい。

この現象を遺伝的連鎖という。

もっと言えば、上図では、1番目染色体上に「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」の遺伝子が乗っているが、「目の色」と「背の高さ」の遺伝子は遠く離れていて染色体の最上部と最下部に位置する。
ここまで距離が遠くなると、同じ染色体上と言えども、染色体上のどこか1箇所で乗り換え(交叉)が発生したら、離れ離れになってしまう。それらの形質の遺伝は比較的独立に起こりやすくなってしまう。

つまり「遺伝子Aと遺伝子Bの連鎖しやすさは、同染色体上の塩基配列に位置するAとBの距離の近さ」だといえる。

超遺伝子とはなにか?

さて、ここまでの説明で、実はイーブイ進化の神秘解明まであと一歩まで来ている。
減数分裂の物理的制約上、遺伝的連鎖という現象によって、”中間の種が生まれにくい”メカニズムを解明できたからだ。

中間の特徴の種が生まれにくいということは、「シャワーズ」と「ブースター」の子どもは「シャースター」や「ブワーズ」にはなりにくく、あくまでも「シャワーズ」または「ブースター」の遺伝子をもって産まれてくるということだ。

実は、今まで説明した遺伝的連鎖の仕組みを使って、同じ種でありながら、互いに全く異なる特徴を持つ個体に変態(ポケモンの場合は進化)する生物がポケモンの世界だけでなく現実世界にも存在する。

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Heliconius numata - Wikipedia

この写真はWikipedia引用だが、ヌマタドクチョウという蝶である。
サナギから成虫に変態(ポケモンの場合は進化)するヌマタドクチョウはこれら数種の羽模様パターンから1種が選ばれて蝶となる。まるでイーブイだ!

とりわけ圧巻なのは、この羽模様すべてが別種の毒蝶のパターンを真似ている(擬態)という点だ。
毒を持った別種の蝶と外見を似せるという擬態は、失敗が許されないシビアな芸当である。ちょっとでも似せることができなければ見分けれられて捕食されてしまう。
ヌマタドクチョウにとっては、各パターンの中間の模様ができることが許されないのだ。そういうシビアさもあってか、自然界には写真のパターンの中間模様をもつ個体は発見されていないという。

単純な減数分裂の仕組みでは、ジャガーのような模様の蝶と蟹の足のような模様の蝶が交配すれば、その中間の模様を持つ蝶が生まれるのが自然である。
しかし、遺伝的連鎖が究極に先鋭化したゲノムにおいては、高確率で中間種の登場を避けることが可能である。

多数の遺伝子グループが塩基配列上のかなり近い場所に集約されて並び、遺伝的連鎖が究極に先鋭化した状態、これを超遺伝子(supergene)という。
超遺伝子をもったゲノムは、個体の外見や性質に広範囲に影響するほど多くの遺伝子を同染色体上の1箇所に集中して保持している。

www.natureasia.com

どのようにしてこんな奇跡的なゲノムができあがるのか?最後にその仕組みを説明したい。

超遺伝子はどのように作られるのか?

減数分裂時に染色体が途中で切れてあいかたの断片とおきかわる現象(乗り換え/交叉)を紹介してきたが、切れた染色体の断片は逆さまになってつながったり(逆位)、場合によってはある染色体で切れた塩基配列片が別の染色体につながる(転座)こともある。切断された断片がどこかへいってしまい、塩基配列数が足りなくなることもある(欠損)。

これが何世代も何世代も繰り返され、非常に多くの遺伝子が染色体の1箇所に見事に結集することがありえる。
たとえば以下図のような具合で。
最終的に「目の色」、「肌の色」、「背の高さ」、「手足の長さ」が1番染色体の上部に集まった。

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まとめます。

イーブイが進化(変態)時に複数パターンの形質を発現できるのは、減数分裂時に逆位、転座、欠損などが起こることによって、炎であれば炎を扱うのに優れた遺伝子がゲノム上の1箇所に集結し、遺伝的連鎖効果を極限まで高めたことによって実現できたと考えられる。

イーブイゲノム解析が待たれる。 

 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

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