宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

ハワイ、イースター島、ニュージーランド、マダガスカルに住みついた人々

列強植民地政策などの歴史を知っている人は、現在アメリカ合衆国の1州であるハワイにカメハメハ大王に代表される先住民がいたことをご存知だと思うが、冷静になって、なぜハワイに先住民がいたのか?を考え始めると夜も眠れなくなると思う。
同様の疑問は、モアイ像を作ったイースター島の先住民は何者なのか?を考え始めても同じである。

ハワイやイースター島は地図で見るとあり得ないほど孤立している。
なぜこのような島々に先住民がいるのか、については一度考えてみてもいい。それはホモ・サピエンスの凄さを物語っているので。

 

海を渡ったモンゴロイド (講談社選書メチエ)

海を渡ったモンゴロイド (講談社選書メチエ)

 

オーストロネシアという大言語グループ

オーストロネシア語族という、系統を同じくする言語を持つ民族グループがある。
近代以前までは地理的に世界最大の範囲に分布する語族であった。そのカバー範囲はすさまじい。

インドネシアが中心地となり、台湾、ハワイ・イースター島ニュージーランドなどのポリネシアミクロネシアパプアニューギニアなどのメラネシアの一部、そしてマダガスカルである。
少なくともこれらの地の先住民は同系統の言語を話す民族であった。
世界地図で見ると、以下のようにすごいことになる(Wikipedia引用)。

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海を渡るようになったホモ・サピエンス

ヒト属の移動は陸続きの土地については幾度もの波があったと考えられる。
たとえば、かつて東南アジアにはジャワ原人が住んでいたことが分かっているが、ジャワ原人ホモ・サピエンスの直系祖先ではないことがほぼ定説となっている。類人猿と現生人類の分かれ目となるアウストラロピテクスはアフリカ単一発祥であることは共通見解なので、これはつまり、東南アジアにはじめに住み着いたジャワ原人と、その後東南アジアに到達し現地のジャワ原人に置き換わったホモ・サピエンス*1、少なくともこの2つ以上の大きな移動の波があったということだ。

しかし、南北アメリカ大陸、オーストラリア大陸オセアニアの島々、日本などにはホモ・エレクトスホモ・サピエンスの直系祖先)の化石は見つかっていない。つまりこれらの地域には、ホモ・サピエンスが誕生するまではヒト属が住んでいなかったのである。
おそらくその最大の理由は、海を渡る必要があったからである。*2

ここで1つの疑問を解決しておく必要がある。ジャワ原人の化石が見つかっているインドネシアはどう見てもユーラシア大陸から離れた島なのだ。ホモ・サピエンス以前は海を渡れなかったはずなのに、なぜここで化石が出土するのか?

古代存在した大平野スンダランド

大昔、氷河期時代には海氷の割合が増えるため海面が低下する。当時の地球は現在と比べ100m近くも海面が低かったという。海面が下がると、マレー半島インドネシアのボルネオジャカルタが位置するジャワ島などの島々は陸続きとなる。
この古代存在した広大な平野をスンダランドとよぶ。

スンダランド - Wikipedia

つまり、ジャワ原人は氷河期時代の陸続きをつたってインドネシアまで到達したのだ。ホモ・サピエンスモンゴロイド)の到達も同様である。

海上文化を洗練させたオーストロネシア文化

諸説あるが、おそらくオーストロネシア文化発祥の地もここスンダランドである。*3当時のオーストロネシア文化には世界で最も先進的で特徴的な技術があった。それは航海術である。

現在でも東南アジアには漂海民とよばれる人々が存在するらしい。海の上で生涯の大半を過ごすという信じられない民族である。 

retrip.jp

おそらく古代オーストロネシアにも彼らのように舟の上を主戦場として、航海術を洗練させた人々がいた。そして彼らは、各地域の特産物を持って海を往復し、交易をおこなっていた。当時としては超重要な民族だっただろう。
「海を渡ったモンゴロイド」の著者後藤氏はオーストロネシア語とは、交易言語であったというおもしろい説を提唱している。

スンダランドは全体的になだらかな平野で、海岸線は入りくんでおり、島々も多かった。その土地が氷河期終焉とともにゆっくりと海に侵食されていくのである。海上文化を発展させる環境が整っていたのに加え、外洋へのりだし新たな島を開拓する強い動機を彼らは持っていたのだ。

太平洋上未踏の島を制覇した開拓者たち

人類未踏の地、ハワイ、イースター島ニュージーランドに出て行った人々は、まさにその自然史的にも重要な時代に生きていた。
まずフィジー、トンガ、サモアなどに渡った民族がポリネシア文化を発祥した。
そして彼らはさらに外洋の航海へと旅立つ。紀元300年には太平洋の東を制覇。イースター島に到達する。
紀元400年にはハワイを発見。そして紀元1000年にはついにニュージーランドに到達し、この時点で人類は地球上の生活可能な主要な島にほぼ住み着いてしまったのである。

最も驚くべきはマダガスカルである。
マダガスカル人の祖先は、言語的類似性、DNA解析結果の両方がスンダランド起源を支持していて、ほぼ定説となっている。*4
「銃・病原菌・鉄」によると、アフリカ大陸東海岸には、オーストロネシア人と交流があった痕跡が今のところ無いという。
これはつまり、マダガスカルへ到達したオーストロネシア人がアフリカ大陸を経由したわけではないことを示している。インド洋を縦断してほぼ直線的にスンダランドからマダガスカルに到達した可能性がある。だとするとミラクルだが、マダガスカル人の移動についてはまだ謎の部分が大きい。

「海を渡ったモンゴロイド」は太平洋制覇を可能とした2000年近くも前の航海の詳細に触れているが、なかなか想像を上回る内容なので、興味ある人にはおすすめできる。


*1:アフリカ単一起源説。

*2:ただし南北アメリカ大陸は氷河期にユーラシア大陸と陸続きになることがあるので、海を渡る必要がなかった可能性はある。

*3:土器の類似性とDNA解析の結果から「銃・病原菌・鉄」では、台湾起源説を唱えられており、これが一般的な見解でもあるらしい。けれども「海を渡ったモンゴロイド」の著者後藤氏はスンダランド中心説を唱えていてこれが興味深い。この説はDNA解析結果とも矛盾せず、当時の文明の実態をより深く洞察していると個人的には思った。

*4:スンダランド起源のオーストロネシア人と黒人の混血。