宇宙スープ

Once upon a time, the Universe expanded from an extremely dense and hot soup

私たちが知らない微生物の世界

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ヒトとバナナのDNAが50%以上一致するという話がある*1。DNA一致率の導出方法はあいまいな部分があるにしても、細胞などミクロな構成要素の生命活動は、ヒトも植物も共通のモジュールが、共通の遺伝子によって支えられているという事実がある。ヒトも植物も実は基盤のデザインは似通っており、遺伝的多様性がさほど無いのである。

外見的には私たちと植物との間に共通点などないように思えるが、地球上の生物の遺伝的関連性を樹形図に表すと(上図)、全体から見てヒトと植物の遺伝的距離は非常に短いのである。「パンダ」、「シロクマ」、「カニ」、「ひまわり」など、私たちがよく知っている「動植物」は生物界全体の実に狭い範囲である。それらは真核生物という種類の一部を担うにすぎない。私たちが知らない世界、それはミクロの世界だが、そこには想像を絶する遺伝的多様性をもった生命が蠢いている。

想像を絶するとはどの程度なのか。
微生物のスケール感を知るために、以下の記事を見てほしい。たとえば、地球上に存在する細菌の総数は宇宙に存在する星の数よりも多いと言われている。

yokazaki.hatenablog.com

微生物は、圧倒的な多様性で、圧倒的な量で、あらゆるところに棲息しているのである。私たちはその詳細を知る必要があると思う。なぜなら、そのスケールを持った微生物群が、ヒトや動物、植物、自然、地球上のあらゆることに影響をおよぼさないはずがないからだ。
動物、植物、昆虫の生態は続々と明らかになってきているが、微生物はその比じゃないほどのスケールがあるのに、ほんのわずかなことしか分かっていない。私たちは微生物のことをほとんど何も知らないのである。

私たちは、細菌とよぶと悪いイメージを持ちがちだが、思い切ってその考えを捨てたほうがいいかもしれない。細菌に注意すべきなのは、医療現場の人たちか、そうでなくても食中毒に気をつけるくらいで十分なはずである。

ネガティブなイメージと逆行して、常在細菌という考えが浸透し始めている。私たちの体にふだんから存在する細菌のことである。腸内細菌の効用についてはテレビでも盛んに宣伝されるようになったが、彼らは消化吸収プロセスなどに深く関わっている。

なぜ幼少期に卵アレルギーだった私が、大人になって1日に何個も卵を食べられるようになったのか?
時間と共に少しずつ常在細菌を獲得し、アレルギー原因物質を分解できるようになったからだと考えられる。

なぜ我々が消化しきれないセルロース(食物繊維)をウシなどの反芻動物は栄養に変えられるのか?
彼らが胃の中にセルロースを分解できる細菌を飼っているからである。だからウシは草だけ食べてあれだけでかくなれる。

サルやカバなど、多くの動物には親の糞を食べたり、親のおしりをなめる習性を持つ動物がいる。彼らはおそらく常在細菌の受け渡しをしているのである。常在細菌の受け渡しをできた個体がのちの生存競争を優位に進められたからこそ、彼らの遺伝子にはそういった習性が組み込まれている。

つまり、私たち動物は(おそらく植物も)細菌と共生関係にある。消化吸収という重要なプロセスを細菌に一部外注しているのである。1生物の体の中で膨大な微生物の生態系ができているというのは衝撃的だ。しかし、1つの”細胞”の中でさえ、そういった共生関係ができる例があるという。ミトコンドリアも元は別個の微生物が細胞内に侵入したのが起源だという説があるらしい*2

個人的な意見だが、人の遺伝的要素以外の『個人差』の多くは、『常在細菌の分布の差』で説明できるのではないか、とさえ思っている。(たとえば、化粧品が肌に合う合わないの違いなど)

 

失われてゆく、我々の内なる細菌

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土と内臓 (微生物がつくる世界)

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